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急ぎ足で校門を出る。イヤホンをオーディオプレイヤーにセットして、やや音量を上げる。
辺りに耳につく騒音がないせいか、すぐに頭の中が響く音で満たされる。聴覚は現実から切り離され、視覚と嗅覚のみが周りを把握する。
いつもと何一つ変わらない見慣れた景色、田舎の土臭い匂いが鼻につく。
ここ暁町は山奥のド田舎……とまではいかないながらも、それなりの田舎だ。市からはやや離れていて、市内(と言っても都会とは到底言えないが)ほどの喧騒も遊び場もない。
「田舎だな……」
見る場所によれば一面が田んぼなんてのもあるし、家が山の中ってのもあるにはある。大概の古い家は山に沿うように立っているし、開けた空を見る限り遠近関係無く言えば山の見えない方角はない。
「しかし、平和だ……」
つくづくそう思う。何もないのは確かにつまらないが、何かがあるのも面倒だ。俺はいつもそう思っていた。
今が特に嫌いというわけじゃない、だが物足りなさは感じていた。
だから聴覚だけは現実から切り離してみたりして、少し刺激を求めていたりする。いや、ただ周りの雑音から解放されたいだけか……。
そのまま急ぎ足で歩み、通学路の交差点にさしかかって止まる。
その十字の交差点はゆるい坂になっていて、横断歩道が中途半端な位置にあるために、横断歩道を使うのはもっぱら小学生と中学生だけ。
高校生にもなると、横断歩道を無視して車道を直進する。本当はよくないのだろうがそれは日常の光景である。
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