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「なんだよ?」
『なんだよじゃねぇ。遅いぞ、何やってんだ!?』
少し怒っているようだ。突然の事があったから忘れていたが、そういえば獅郎たちが公園で待っているんだった。
「こっちだって色々あるんだっての」
『なんだよ、色々って?』
「それは……まぁ色々とな」
女子高生をトラック事故から救っていました、だなんて別に言わなくてもいいだろう。獅郎はおしゃべり野郎だし、事を大きくしないためにもむしろ言わない方が無難だろう。
『なんだそりゃ?』
「うっさいな。わかったから、すぐ行くって。じゃあ切るぞ?」
『んだよ~、じゃあ早く来いよ!』
ケータイをポケットに突っ込む。取りあえず急いだ方がいいんだろう。振り落としたままのカバンを取ろうとして振り返る。
「え、あれ?」
不可思議なことに、そこには誰もいない。辺りを見回したがあの女子高生は影も形もない。
電話していたこの短い時間の内にそれほど遠くに行けるとは思えないし、なにより動く気配がなかった。文字通り、消えた……ような感覚。
「まさか、な」
こっそり逃げて、隠れるように何処かへ行ったのだろう。よほど恥ずかしかったのだろうか。あまり気にしないことにして、取り敢えず公園に急ぐとする。
そう、その時はあまり気にしなかったのだ。
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