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早く帰って化学でも勉強しよう……とか、そんなことを考えながら我が家に向かって歩く。
(困ったもんだ……)
何故か篠崎は俺の成績については特にうるさい気がするのだ、これで欠点なんて取った日にはどうなることか。もう篠崎の呼び出しをくらうなんてまっぴら御免だ。
日が暮れかけているからか、肌に触る風が涼しい。耳について喧しい車の音が消えていて、気付けば住宅地に入っていた。
子供たちが駆け足で笑いながら、母親に連れられて家に入って行く。
この住宅地はまだ出来て間もない、出来てから5年ほどしかたっていない。
住んでいるのは比較的若い夫婦が多く、よろしく過疎化の進む暁町が必死にPRして人を呼んだらしい。
(まぁ良く知らないけど……)
4年前に俺の家族はすぐ近くからここに引っ越しして来た。引っ越しといっても、すぐ隣りの地区からで引っ越しというより少し移動したと言った方がいいだろう。
隣の地区に住んでいたのだから、この辺りは小さい頃からよく見ていた。
ここも昔は見渡す限りの田園で、そこを埋め立てたのだ。瞬く間に景色は変わっていった。
「ん?」
住宅の間から、目の前にいきなり黒猫が飛び出してきて、道の真ん中で止まってこちらを向く。
漆黒の身体と宝石のように恐ろしく綺麗な紅い瞳、その瞳はハッキリとこちらを見ている。
「なんだ……?」
なんだろう。何故か凄く、不思議な感じがする。
黒猫はこちらを見つめたまま動こうとせず、俺も動かない。端から見れば少し異様な光景に映るだろう。
長く見つめ合っているうちに、なんだか心の中を覗かれているような気がしてきて落ち着かなくなってくる。
そいつはただの野良猫だろうに
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