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突然の違和感に思考が止まる。確かに声は出していないはずなのに、それに応える声があることに気付いたからだ。
「おい、何処を見ている?」
驚き過ぎて引いてしまい、バランスを崩して尻餅をつく。
確かに見た、聞こえた、この黒猫がしゃべったのだ。
「な、なんで猫が、しゃべって……!?」
「猫が喋ってはいけないのか?」
「いや、いけないとか悪いとかそれ以前に……はぁ!?」
猫と会話してしまった。わけがわからない、頭がおかしくなってしまったのだろうか。
「そうか、普通猫は言葉を介さないか」
黒猫は独り言のように喋っていて、気味が悪くなってズルズルと後退する。
気付くといつの間にか部屋から出ていて、尻餅をついたまま廊下に出ていた。
「何やってんの?」
「く、紅澄葉……!!」
風呂上がりなのだろう、紅澄葉がパジャマで長い髪をタオルで拭きながら廊下を歩いてきていた。
「ね、猫が……!!」
「猫ぉ?」
部屋の中を指差しながら必死に言葉を紡ぎ出そうとするが、気が動転していて上手くいかない。
その様子にただならぬ気配を感じたのだろう、紅澄葉は早足で向かって来る。
「……何処に?」
紅澄葉はすぐに部屋を覗き込んだ。
しかし猫が見当たらないようで怪訝そうに見下ろして訊いてくる。
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