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「まだまだ“女の子”だな」
小馬鹿にしたような口調で少年声が辺りに響く。主人を敬わない態度は相変わらず、いくら年の差があるとはいえコイツには一度自分達の関係をハッキリさせておく必要がある。少女はそう心に決めて、不満な顔のまま廊下を進む。
小柄な少女の体重にもかかわらず、歩くたびに床はまるで悲鳴をあげるかのように軋む。室内は薄暗く、木で造られた柱は所々で朽ち果て、木片が床の至る所に散らばっている。全てが木で造られているためか、小屋にしては大き過ぎるこの家屋の中には樹木の匂いが充満していた。
そして廊下の所々にある窓にはガラスがはめられておらず、わずかな夕暮れの日の光りが室内を同じ色に照らしている。
若干生温い初夏の風が肌を撫でるように通り過ぎ、長い金髪を揺らす。
「それで、元老院の許可は得たのか?」
少年声がたずねてくる。察してもいいだろうにと、少女は小さく呟く。
「……もらってない」
事態は一刻を争うというのに、元老院の老公達は終わりの見えない話し合いを続けていっこうに答えを出さない。少女は待っているのが馬鹿らしくなったのだ。
案の定の反応で、横から小さなため息が聞こえた。
「まったく、相変わらずだな。だがせめて法皇には、このことを伝えているんだろうな?」
「その点は問題無いわ」
元老院を無視したために、今は法皇様の許可さえも得ていないのだが、陛下には伝わっているはず。あの方ならそれで問題ない。
「問題ないわけがないだろうが……まったく、これだから問題児扱いをされるんだぞ? 手出しされると面倒だからと先遣の調査隊も無理矢理に帰らせたのだし、後で元老院に何を言われるか……」
「あーーうるさい。今さら過ぎた事なんて気にしてられないわ。それより、術の方は大丈夫なの?」
「……はあ。その点は現物を見てみない限り何とも言えない」
話しているうちに行き着いた一際広い部屋。その床一面にチョークのようなもので図形や文字が描かれている。辺りには、異様な重い空気が漂っているように思えた。背筋に寒気が走り、嫌な汗が流れる。
「どう?」
「現物をそのまま残して行くとは、奴等にしては珍しい……」
「いけそう?」
「……何もなければな」
いつもその声は自信に満ちているのだが、それが今日は答えに歯切れがない。
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