千夜から向日へ

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「はぁはぁ…」 「どうしたのってば!!?」 「見るな!!」 俺は素早く葵の顔を手で覆う。 「やめてよ」 その行動も虚しく葵は素早く手を払いのけた 「………えっ!?」 猫だ。 車にはねられたらしく、血が吹き出し内臓が飛び出ていた。 はねられた直後らしくまだ息はある。 「痛いよ…痛いよ…助けて…」 「リト!?! どうしよう…」 葵の顔は蒼白し、震えている。 「すぐ動物病院に…!!」 「無駄だ…」 「どうして…??」 「この傷じゃ…助からない…」 猫の体を黒い影が包み込んでいる。 何でだッ?! 何でこんなものが見える!? 「…ユアちゃん…もう一回だけ会いたかったよ…」 猫が弱々しい声で鳴いた。 「ユア?! 左藤結愛か!?」 確か彼女はこの近所に住んでいた筈だ。 「そうだよ…お兄ちゃん…ボクの言葉が分かるの……?」 「ああ」 「リト…? 何言ってんの…?」 悪いが説明してる暇はない。 左藤結愛は同じクラスのため携帯に連絡用の電話番号が入っている。 「待ってろ!! 今すぐ呼ぶから! 死ぬなよ!」 ピッポッパ プルルル…。 「はい。左藤ですが??」 「左藤さん!! 俺だよ! リト!実は……」 少し時間が過ぎ大急ぎで左藤結愛が駆けつけてた。 「嘘っ!? リト?!」 猫の名前はリトらしい 複雑だ。 「死んじゃだめっ!!」 今すぐにも息絶えそうな猫の体に近寄り結愛は泣いた。 「ユアちゃんが来てくれたんだね…? ボクはもう…何も見えないし…感じないけど…」 「もう寂しくないよ…? …ありがとう…お兄ちゃん…」 「お兄ちゃん…ユアちゃんに今までありがとうって…伝え…て…」 その体から魂が抜け出た事をいち早く俺は感じとった。 バカやろ… お礼なんて言われるような事何一つ出来てなんかねぇ。 「………」 そんな目で俺を見るなよ、葵…。
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