名女優とその執事

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彼が彼女と出会ったのは、強い雨の日の夜だった。 この地区は大国間戦争の残骸が生々しく残り、アルディア国内の西部に位置する廃墟の街。 夜雨がアスファルトの色を濃く彩っていた景色だけは、記憶が不安定な彼でも覚えていたそうだ。 全く人気もないこの地に、当時の彼が傷だらけで倒れていた。 普通ならば、もう助からない程の傷だったらしい。 その地区にオリンポス軍の隊員数名と女性隊長だった彼女が、戦後調査の名目として訪れていたおかげで、偶然発見された彼の命は救われたそうだ。 西部に位置するこの街は、戦争の傷跡が色濃く残っていて、建物も道も酷い有様だった。 そのため歩きにくく、雨で視界不良になっていることを考えると、探し物を見つけるには些か条件が悪かった。 隊員A「そろそろ帰りましょうレイア隊長。この雨ですし、風邪を引いてしまいます。」 隊員B「そうですよ!こんなに探しても見つからないんですから!」 レイア 「絶対あるはずなのよ……。後は私だけで探してみるから、皆は先に帰ってていいわよ。」 隊員A「そういう訳にはいきませんよ。」 目立たない程度の赤茶色の髪だった彼女の髪は、雨に濡れてほぼ赤色に変わっていた。 降り止まない雨に体温を奪われ、だんだんと手もかじかんできている。 もう引き上げよう。私の我が儘にいつまでも仲間を付き合わせる訳にもいかない。 そろそろ引き上げようかと考え始めたとき、一人の隊員が何かを発見して叫んだ。 隊員C「レイア隊長!!ありました!!懐中時計です!!」 レイア 「本当!?」 駆け寄る彼女に隊員はその懐中時計を手渡す。 その時計は銀の十字架の装飾が美しく施されていた。 レイア「……よかった。」 隊員A「そんなに大事なものなんですか?」 隊員が気になったのは、彼女の表情からだった。 余程見つかったのが嬉しかったからなのか、彼女がうっすらと涙を浮かべていた。 レイア 「うん、とても大事なものなの……。見つけてくれて、本当にありがとう。」 隊員C「いえ、勿体ないお言葉です。私は隊長のお役に立てればそれで……。」 彼女はようやく笑顔になり、大事そうに時計をしまった。 レイア「本当に皆ありがとう。大事なものも見つかったことだし、これ以上の長居は体調を崩すからさっさと帰りましょう。」
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