597人が本棚に入れています
本棚に追加
/261ページ
「離れてくねー」
千代は少しずつ、離れて行く墓守島を貴と並びながら見ている。鮎川はもちろん、船酔いでダウンだ。豊田は岸辺と話している。相川達とは船着き場で別れた。木皮は「また遊びに来てね」と泣きそうな笑みをしながら言っていた。
「そういやさ、川上さんの遺体は?」
「生まれ育ったところの墓に埋葬されるそうだ」
「そっか……。 そういやさ、貴って私の為に静と豊田さんの近くにいろって言ってたよね?」
貴は千代を一瞥してから、ああ。と答えた。
「逆に静達にも私の傍にいといてくれって言ったんでしょ? あれはなんで?」
「面倒だから」
「はっ?」
「お前にウロチョロされると面倒なんだ。この前なんか幽霊にさらわれたりしたし……お前が一人で行動するとろくなことがない」
「なっ、なな…」
千代は貴に向け、足を振った。だがそれを貴はすんでの所でかわし、千代の脇を通る。その時にそっと千代に言った。
「体を鍛えるより頭の中を鍛えた方が良いと思うが?」
貴はそう嘲るような笑みを浮かべて、船長室の方へ行った。
千代は呆れ半分にため息をついた。貴は自分の為にやってくれたのではないのか。と残念な気持ちでどんどん離れていく島を見る。
「さよなら、墓守島…」
さよなら、春子ちゃん。
波に揺られる船の揺れに身を任せながらそう呟いた。
島はなおも遠ざかっている。千代はその島の全てを見届け、目をつぶり、島のこれからのことについて考えた。
―――明るい島になるだろう。
千代の真上を通る太陽は強く、島を、千代を照らしていた。
FIN
最初のコメントを投稿しよう!