―第一章 朔詠閉話― Ⅱ

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 目が覚めた。  突然、差し込んだ光―――思わず目を閉じる。  世界が眩し過ぎて、目を開けて入られない。  こんな中で開けていたら、目から無限の光が差し込んで、先に頭がお陀仏してしまうだろう。 「起きたわね。そこに作り置きのご飯があるからどうぞ。あと眼はまだ閉じていた方がいいわ」  懐かしい声に言われて眼を閉じる。 「おはよう、薫。気分はどう? 死後の世界へちょっとした、トラベルツアーのご感想は?」 「最悪ですね。今まで自分の中でようやく構築されてきた、『世界』という代物が根本から捻じ伏せられる気分ですよ」  率直に本音を漏らす。声の主は煙草を加えながら『くく』、と笑う。  いつ聞いても、意地悪い笑い方だ。  この人の性格を言い表すには十分な笑い方。性格が根本から曲がっているんだろうな、なんて口にした次の日には夜明けは拝めないだろう。  それにしても不安定だ。  俺が視た物は何兆通りの未来……それが一斉に頭の中にインストールされてくるのだ。
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