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雨が降っていた。それも小雨とは正反対のスコールと呼べる規模のものだった。
東京はこれだから嫌だ、と彼は毒づいた。
高田馬場から池袋方面へと歩む。進む方向があっているかどうかは定かではないが、サンシャイン60が確かに池袋の場所を教えていた。
視界は雨で最悪である。
彼の手には傘は無い。
近くにコンビニでもあればと思うが、コンビニは見当たらなかった。
本当にここは東京なのかと怒りさえわく。
「見つけたぜ……」
彼の前に現れたのは、これまたずぶ濡れの少年だった。身長は高いが顔は幼い。子供だ。
手には物騒な日本刀が握られており、素手の彼と比べれば戦力さは月とスッポンといえるほどである。
「アンタがこれから向かう場所はあそこじゃない」
切っ先が彼の心臓に向けられている。
彼は本能からか後ろに数歩さがった。
スコールと相まって時間は深夜、残念ながら大通りから少し離れた小道を歩く人はいない。
もちろん車もない。車のヘッドライトの一つでもあれば案外心の平穏は保たれたのかも知れないが、彼にはその合いの手さえなかった。
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