―第一章 朔詠閉話― Ⅱ

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 『覆水盆に帰らず』とはこの事を言うのだろう。  人間。一度、死を体験すると極稀に特殊な能力が開花されるという。  それは人の心を読む力で在ったり、過程を抜かして結果に辿り着く知力で在ったり、物に触らないで動かせる力で在ったり、と俗に言う『超能力』というものだ。  俺のこの未来を視る眼もその一種だろう。いや、元々これは未来を見るものではない。  オレの能力は無窮にしか成らず……これは大切な人から譲り受けた力なのだから。  『死』の恐怖。  それを与える側の自分が体験するとは思ってもみなかった。  恐怖という感情。  絶望という感情。  未練という感情。  それを怖いと感じた事は無い。  ただ『死』というのはそれらさえも感じさせない。  『虚無』  それが何故か理解出来ないが途轍(とてつ)もなく怖いのだ。  ちなみに、先ほど話していた骸鬼とは、鞍馬家に伝わる家宝の喋る刀だ。  残念ながら、俺が殺された時に叩き折られた代物だ。小煩い奴だったが、いなくなってみると寂しいもんだ。  ベットから起き上がり、歩こうとすると何の予兆も無く膝をつく。
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