655人が本棚に入れています
本棚に追加
その上、少年の得物は日本刀だ。ナイフなんてレベルじゃない。
確実に敵を切り裂ける代物だ。
銃だったら発砲の際の音で何かが変わっていたかも知れないと彼は考える。
もちろん、彼にサブプレッサーの知識なんてないから考えることではあるが。
雨に濡れたスニーカーが『ぐしゃりぐしゃり』と音を発てて近づいてくる。
彼は怯えていた。無理も無い。
目の前には日本刀を持つ少年が何のつもりかわからないがその力を振るおうとしている。
彼は確信する翌日の一面を飾るのは正しく自分だろう、と。
辻斬りのような殺人事件なんて誰もが注目する。それも土砂降りの雨の中なら尚更である。
目の前がぐるんぐるんと回転する。脳がこの状況を理解できないのだ。
何故、自分がは狙われているのか全くもって彼には検討がつかない。
恨みの一つ二つなら人間生きていれば必ず買うだろう。しかし、それが殺されるほどのものかと言えば、絶対と言っていいほど彼の場合は当てはまらなかった。
おかしい、と彼は思う。
何故なら彼は“ただ”池袋に向かって歩いていただけだ。
他意はない。決してだ。
それが何故こんな状況になってしまうのだろうか。全速力で後ろに駆け出そうとしても、足は走り方を忘れたかのように空回りするだけで全然やくだってくれない。
生れ落ちて現在に到るまで共に歩み進んできた大親友だというのにそれを無碍にするようにただ『カクカク』と動くだけだ。
彼に影が覆いかぶさった。
顔をゆっくりと上げる。少年の瞳だけが妙に輝いていた。
最初のコメントを投稿しよう!