ー第一章 朔詠閉話― Ⅲ

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 ◆  ロンドンの街を歩く。それは俺にしてみれば観光のようなものだ。  ……ようなものだはおかしいか、本当に観光なのだから仕方がない。  今、動いても何も出来ないならせめて心にこの風景を焼き付けておこう、と考えるのは間違ってはいないだろう。  間違いだと異を唱えるものが居たとしても、俺は気にしないので万事良好だ。 「ま、爪の無い獣はペットにしかならないだろうし……」  人を殺す爪を無くした獣は野生という存在意義を無くし、観賞用のペットに成り下がる。  まぁ、俺的には別にペットでもしっかりした飼い主がいるなら構わないのだが……  眼に眼帯をあてて正解だった。  包帯を巻いているといかにも重病人のようだし、逆に眼を見開いていたら『未来』という情報の波に飲み込まれてしまう。  そして何より俺はカッコ悪いのは嫌いだ。  それでも隻眼からは絶えず情報量が有無を言わずにダウンロードされているわけではあるが……。まぁ、それでもいずれかは慣れていくもの。  『視れる』のなら使いこなせるのも道理というものだろう。 「こんな所にいたんですね……全くすぐに逃げ出すんですから」
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