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花盗人が出る。
夜な夜な。というほどに頻繁ではないが、数日に一度といった風に周期を持っている。
その花盗人の手口がどうやら金銭目的ではない様子で、不可思議。
初めてその現場を見たときは言葉を失った。
ハウスいっぱいにはびこり咲き誇っている筈の花々
その花首だけが消え去っている。
花だけが切り取られているのだ
頭を失ってズラリと並ぶ光景は異質で不気味だった。
ほぼ大多数の見解では同業者による嫌がらせとなっている。
それにしては愉快犯じみているので腹が読み辛いのだ。
出荷できなくするだけで良いのなら単純に踏み潰すだけでいいのだから。
「・・・・」
「おかえり、夏海?」
急に背後から声を掛けられて振り返る。
猫を抱いた母がきょとんとした顔で僕を見ている。
思考に耽るうち立ち尽くしていたらしい。
「どうしたのそんな所で」
「・・ん、暑くてちょっと、ぼーっと」
「やだ、日射病?」
早く中に入っちゃいなさい。
と言いながら、立てっぱなしだった僕の自転車を車庫へと押して行ってしまった。
体調に不備がある訳では勿論無いが、大人しく踵を返し母屋の方に向かう。
湿気を帯びた熱気がじっとりと辺りに満ちている。
夕立にでもなるのかもしれない。
心底どうでも良い事を僕の頭は思考しようとする。根底に根付く、普遍的な興味は一点に絞られたまま。
正体不明。意図不明。それだけで高揚している自分を感じる。
必然に急き立てられて振り返る。
それはいつもと同じ風景の筈なのにどこか隠微に映った。
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