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けぶるように激しい夕立は一刻もすると冗談のように晴れ渡った。今はもう赤みを帯びた月すら見える。
半分だけ開けてあるガラス戸と、網戸を一緒に開け放つと足を投げ出して腰掛ける。
昼は真夏のそれなのに、夜はもうどこか秋めいた空気をしてひんやりと澄んでいる。
そこに似つかわしくもう虫の声がそこかしこから聞こえて来る。
いつまで暑いんだと恨めしく思っても無くなるのは嫌なんだなあ。
風呂上りの惚けた頭でそんな事を考える。
サッシに頬を預けるとそこからじんわりと熱が移っていく。
眼前に白熱灯の光がポツリポツリと灯って巡っている。
そろそろ件の花盗人が現れるであろう頃合いなのだろう。
昼に集まって話し合っていたのはそれの対策のためで
今日は夜通し花の番人をするらしい。
それでは持久戦になるばかりでこっちが不利なのは変わらないと思ったが
僕が思いつく事なぞ大人たちは承知なのだろう。
承知の上で他に打つ手がないのだと。
そう思い至った時は、純粋に面白がるだけの自分が下卑て感じられた、が。
今はもう期待、というか予感で頭がいっぱいだ。
[今日もまた花は盗まれるだろう。]
そんな確信が揺らがない。
父達の苦労を慮る気持ちの方が確かに強いのに、まるで僕の予想も希望もそれに酬いない。
信仰の対象のような絶対感。自分でもなんだかおかしく思うのに。
黒と紺の合間を漂う白を目で見つつ追わないまま
罪悪を罪悪とすら感じない自分を嘲笑してみた。
涼かな空気と鈴かな音がその刹那に途切れた事に気付かないまま。
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