花盗人

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 初めに感じたのは匂いだった。 草むしりをしているような濃く青い匂い。 繰り返しになるが今は宵の頃と言うには少し遅い時分だ。 草むしりなんてしてるわけはない。 「・・・・」 風呂上がりでほてっていた筈の背中に冷たい雫が伝う。 一瞬して緊張が空気を張り詰めさせていた。 しかし相変わらず何かがいるような気配はないのだ。 誰か居るのか。と声を上げたいが 緊張と混乱と恐怖で喉が塞がってしまっている。 情けなく掠れた音を立てている音がするので 辛うじて呼吸だけは出来ているようだ。  そのまま数分、じっとしていただろうか。 ようやく嗅覚以外にも異変が感じられた。 パサ、パサ、と軽い何かが重なる音。 それの合間に極僅かに足音だろう砂利を踏む音がする。 姿は見えない。 暗いから、とはいえ体の輪郭位は見えてもいい距離だと思う。 それでも見えないのは どうしてだろう。 カサカサに乾いてしまった舌を上あごに擦り付けて潤わすと じっと暗闇を見詰める。 相変わらずそこは藍と黒しか無くて 僕の中に、恐れよりも焦れが満ちた。
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