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羽の大きさは、大人の男性の掌4枚分。色は極彩色で、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と、虹を集約したようで、身体はフランクフルト程の大きさ。
模型か何かだと思った。念の為、じっと3m先から凝視する。
「いっ……生きてるぅっっっ!」
息をしているのか羽を羽ばたかせ、身体は波打っている。風のなせる技ではないことは確かだ。しかも運の悪いことに、私達姉弟は虫が大の苦手。蝿でさえ逃げ回る始末。そんな2人が平気でソレの横を通り過ぎるなんて、出来る筈もない。
しかし、○○センターは高いサクで覆われており、出入口も1つしかない。
絶 体 絶 命
その場に立ち尽くし、30分は過ぎただろうか。意を決した姉が、自転車を押しながらソロソロと門へ向かう。もし大きな音を立ててしまったら、その蝶々がこっちに向かってこないとも限らないからだ。私達にはそれが1番恐怖だった。
辺りはしんと静まりかえり、いつしか蝉の声も耳に届かなくなっていた。自転車のハンドルを握る手に汗が滲み、雫となって滴る。木々の葉が風に揺れる音のみが聞こえていた。
・・・門 と 蝶 々 ま で 2 m・・・
蝶々のブチブチ模様がはっきり分かる距離。
・・・門 と 蝶 々 ま で 1 m・・・
蝶々はぴくりと動き、触角がこちらにゆっくりと向く。
「今だっ!」
姉と私は残りの距離を駆け抜け、見事に門を越えて一安心した、その時だった。
バ チ バ チ バ チ ッ !
爆発したような音が鳴り響いた。驚いて音が鳴った方を見ると、虹色の蝶々が山の方へ向かって飛んでいった。
* * *
その後、図書館の資料で調べたのだが、私達の見た蝶々は載っていなかった。
今だ忘れられないあの日の恐怖。姉にその話しをすると、『思い出したくない!』と、本気で怒られる。
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