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凛は思い出した。
昼休みに風に飛ばされた一枚の絵。
――あれは、わたしがかなり前に描いたものだった。
あの日、空を見上げたら澄んだような青い空に、長い飛行機雲が伸びていた。
吸い込まれそうな青に白いラインが、印象的だった。
それは病院の屋上で…祖父の最期を見届けたのちに描いたんだ。
なんとなく、古いスケッチブックから切り離して挟んでいたものだった。
凛は渉に拾われた絵が大切なものであることを、思い出した。
「俺が中庭の芝生で昼寝してたらさ、こいつが飛んできたんだよ」
そう言って渉は凛の描いた絵を見つめた。
あれが、三枝君のもとに飛んでいったなんて。
「…返して。」
凛は言って、渉のもとに歩み寄った。
しかし渉はぱっと絵を背中に隠す。
「ごめん。返したくない。」
「…なんで」
凛はその渉の行動が理解出来ずに軽くにらみつけた。
「やめてよ。大事な絵なの。あなたが持っていて何になるの?わけのわからないことしないで」
からかわれるのは、嫌。
大事な絵を他人に持ち歩かれるのも…嫌。
凛は普段にもなく、まくし立てていた。
すると渉はふっと息を吐いた。
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