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「駄目かな。俺…この絵気に入ってるんだよ。別に中島に嫌がらせするつもりも、ないし」
渉は少し困ったような表情で言った。
その表情に邪気はない。
凛はためらった。
彼が本心で、そう言っていることに。
「絵とか俺わかんないけどさ、すげえいいなって思ったんだ。特にこの青空と飛行機雲とか。隅にサインあったから中島の描いた絵だってわかったんだ」
渉は凛の描いた絵を取り出して言った。
その絵は色鉛筆で着色されていて、空の青が鮮やかだった。下のほうに小さく『Rin』のサインがある。
彼は心から感動しているみたいだった。――…わたしの絵に。
凛は渉の表情を見つめた。
「…いいよ。」
凛はぽつりと呟いた。
――彼が本気で喜んでくれるのなら。
凛はその時なぜか強くそう思った。
「え?いいって…くれんの!?」
渉がはしゃいだ声をあげると凛はただ黙って首を縦にふった。
「そっか…ありがとな。」
そう言って渉は歯を見せて笑ってみせた。
笑顔。この人は、ほんとうに、心から笑える人なんだ。
ひきこまれそう。
…凛はそう思った。
なぜか、もっとこの人の顔を見ていたい。
話してみたい。
そう思った。
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