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しかし、凛は我に帰った。
時計を見ると塾に行かなければならない時刻に迫っている。
「ごめん…」
凛は渉にそう呟くと、早足で昇降口に向かった。
「あ、まじでありがとな!つかきゅうに呼び止めてごめんな。」
渉の声が背後から響いた。
凛は少しだけ振り向いて、首を小さく横に振った。
…ありがとう。
凛の呟きは、渉に届いたかどうかは分からない。
ちゃんとお礼言えば良かった。
ほんとうは、褒めてくれてうれしかった。
この気持ちをどう表現したらいいのだろう。
口で伝えれば簡単なのに、うまく言えないときがある。
それでも凛は、胸のどこかが暖かくなるのを、感じていた。
そして、その暖かな気持ちを形容する言葉を、凛はまだ知らない。
――…これが凛と渉の出逢いだった。
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