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―…目に映る世界を、閉じ込めてしまえればいいのに。
まだ薄寒い春のはじまり。
校庭の桜の木は芽吹いているが、花を咲かせる気配はない。
昼休みの正午の空は蒼く澄んで、日当たりが良くて心地いい。
凛はそっと空を見上げた。
桜の木に一羽のめじろが停まっているのが目に入る。
――まだ花も咲かない桜の木に停まった、深緑色の小さな鳥。
描かなきゃ。
この景色をスケッチブックに閉じ込めなきゃ。
凛は手に抱えていたスケッチブックを開いた。
そのとき、ふわりと風が吹く。
強い風に凛のスケッチブックがめくれ、ページに挟まっていた一枚の絵が風に舞う。
「…あっ。」
凛が手を伸ばす間もなく風は一枚の絵をさらってしまう。
そして、見えなくなってしまった。
ふと見上げると桜の木に止まっていたメジロもいなくなっていた。
ちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。凛は仕方なく、何も描かれてないままのスケッチブックを閉じた。
また退屈な時間の、再開だ。
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