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細川とはクラスも変わり、会わない日々が続いた。顔も合わない日々。だから挨拶をすることもない。
完全に彼女と私は別の道を歩いているようだった。
「ねえねえ沙恵は知ってる?」
お昼休み、購買で買ったパンをかじっていると、美樹がこっそり私に話しかけてきた。他の友達は別の話で盛り上がってこちらの話には興味がなさそうだ。
彼女が小声で話しかけてきた事に眉を寄せながらも、いつもの癖でおどけてみようと、パンと美樹を見てハッとした表情を作る。
「どうしたの?あ!このパンは最後の焼きそばパンだったんだからね!分けないよ!」
冗談でそう言うと、美樹は食わないってとツッコミながら、再び小声で続けた。
「キス、したらしいよ」
「は?」
何が?と私が続けようとする前に美樹は続けた。
「細川が田中ちゃんと、その前の文化祭で、キスしたらしいの。結構噂だよ。なんだもう知ってると思ったのに知らないの?あんたと細川仲良かったじゃん」
体勢を戻し、不思議そうに美樹がこちらを見る。
「知らない…」
知りたくもない。
でも
知ってしまった。
食べかけのパンが、口に触れさせるのも嫌なほど、食べたく無くなる。
私は急に吐き気がして保健室へと向かった。
美樹や他の友達が何か言っていたが、あまり覚えていない。
窓から見た、ただ青い空は
その時の私には、何故だかとても嫌なものに思えた。
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