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「お前すごいな。」
僕の後ろで声がした。
振り向けば、先ほど睨まれていたはずの彼女が、何事もなかったようにけろりとした顔で立っていた。
「え?」
「じ様の前に自分から出る奴なんて、初めて見た。お前勇気があるな。」
そう言うと、彼女はとてとてと老人に歩み寄っていった。
「じ様。こいつはじ様に合わせようと思って連れてきたんだ。」
「そうか。で、その子を合わせて、お前は儂に何をさせようとしているのだ?」
「こいつは家に帰りたくないんだって。」
「だから?」
「何とかしてくれ。」
「何とかか…。」
老人は僕をじっと見つめる。
そして、僕に手を伸ばしてきた。
僕は反射的に目を瞑る。
老人の手が、僕の頬の痣にそっと触れた。
「?」
僕は顔を上げる。
すると、老人の優しい微笑みが目の前にあった。
「安心しなさい。」
その言葉に視界が揺らいだ。
老人の手の温かさが、じわりと伝わってきた。
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