4996人が本棚に入れています
本棚に追加
「家がわからないのか?迷子か?」
いきなり黙った僕を不審に思ったのか、彼女は僕の顔を覗き込んできた。
「ううん…。わかるよ…。わかるんだけど……」
僕は俯いたまま膝を引き寄せる。
その時、僕の袖の間からちらりと痣が見えた。
僕はそれに気づかない。
「そうか。なら行こう。」
彼女は僕の腕を掴み、ぐいっと引っ張った。
「え!?ど、どこに!?」
僕は慌てながら、彼女に尋ねた。
「家だ。」
「え…。」
僕は目の前が真っ暗になった。
「家に帰るんだ。」
その言葉に奈落の底に突き落とされたような感覚を受ける。
やめて。
「だ、大丈夫だよ。」
やめて。
「僕は一人で帰れるから。」
その手で…
「一人で大丈夫だからっ!」
さっきまで触れてくれた…
「ちゃんと帰れるからっ!!」
その温かい手で…
「もう少し経ったら帰るからっ」
僕を“あそこ”になんか連れてかないでっっ!!
「ちゃんと帰るからっっ」
さっき感じたものを…
「家に…帰るからっっ!!」
無くしたくないから…
「だから」
だから…
「何を言っている?」
「え…?」
「行くのは私の家だ。」
そう言うと彼女は、僕の手を引いたまますたすたと歩きだした。
(え…?)
.
最初のコメントを投稿しよう!