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長く艶やかな髪を踊らせ足音も立てずに廊下を歩く男。
その後を一定の距離を保ってついていく大柄な男。
手前の男がスピードを上げれば後の男も上げてくる。
歩を止め振り返れば隠れもせず真っ直ぐ見つめてくる。
「…ハァ…何だ?銀狼」
「…黒陽」
「ずっとつけてきて、欝陶しいったらないな」
「………」
「何か用があるんじゃないのか?」
「………此れを…黒陽に」
銀狼と呼ばれた男はそう言って一輪の花を差し出した。
薄紅色の小さな花を大事そうに握り締める大柄な男。
その余りのギャップに黒陽は思わず噴出した。
首を傾げる銀狼を余所に一頻り笑うと銀狼から花を受け取ろうと手を出した。
「ククク…ありがたく頂戴しようじゃないか」
「………」
「何だ銀狼、俺に持ってきたんじゃないのか?」
「……黒陽に」
訝しげに眉をひそめる黒陽。
銀狼は黒陽の髪を一束手に取ると朱色の紐で縛りそこに薄紅色の花を飾った。
綺麗な黒髪と一緒に風に揺れる薄紅の花。
その様に満足げに笑う銀狼。
「似合う」
一言そう告げると銀狼は恥ずかしそうにその場から走り去っていった。
1人残された黒陽。
髪に飾られた花を見つめながら小さく笑みを零した。
「柄にもない事をしてくれちゃって…アイツの花を嬉しいと思うなんて、俺も焼きが回ったねぇ」
先程までとは打って変わり柔らかな口調で呟く黒陽。
「あんな無口で無愛想で図体のデカイ男の何がいいんだかねぇ」と楽しそうに愚痴を零すと再び歩みを進めた。
漆黒の髪に薄紅の花を浮かしながら。
-END-
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