『やきもきヤキモチ』(傲慢ダーリン番外編)

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「ここ、いい?」 「あ、どーぞどーぞ」 私が頷くと、彼はまた小さく微笑んで隣の席に腰をかける。 あ、そうだ。まださっきのお礼言ってないや。 その事実を思い出した私は、すぐにお礼の言葉を伝えた。 「どういたしまして。日本史の本持ってあたふたしてたからそうかなと思って。 当たってよかった」 くすっと笑ったその様子を見て、数分前の自分を思い浮かべる。 あたふたしてたとか…恥ずかしい。初対面の人にそんな事を言われて、もう苦笑いを返すしかなかった。 目の前の笑顔から逃げるように視線を外して、言われた範囲を本で確認すると、思った以上に用語がたくさんあって。後10分で暗記するのは自分の脳ミソには不可能だと悟る。 せっかく教えてもらった範囲だったけど、私は諦めて渋々本を閉じた。 「ねぇ、その制服ってG高?」 「え?」 「俺F高だからたまに見かけるんだ。その制服」 「あ、そうなんだ! うん。私G高だよ。 ていうか、F高通ってるなんてすごいね!!」 F高と言えば、私の親友の彼氏さんが通っている進学校で、私でもそのレベルの高さは知っていた。 「入ってからは大変で大変でついてくのがやっとだよ」 そう言って浮かべた笑顔は、さっきまで彼が浮かべていたそれとは異なった自嘲的なものだった。 それでもすごい事だよ、と私が続けると、彼は小さく笑いながら一言ありがとうと告げた。
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