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「まっちゃーん」
声に振り向くと、クラスメイトの空戸が手を振っている。振り返すと、列の中程に並んでいる僕の横に並んできた。僕は「氷菓」を取り出して読む。
「やー、暑いね」
「そうだね」
「九月でこれだけ暑かったら十二月はどんだけ暑いのかね」
「そうだね」
「……明日も来てくれるかな?」
「いいともー」
「話聞いてんのか聞いてないのか分かんないわね」
「そうだね」
「うわ、会話が成立してる」
空戸は笑った。
二紙高校に入って五ヶ月ほど。空戸アリスはその明るさと人懐こさでクラスの中心人物となり、僕はその無関心さと無気力で着々とクラスから孤立していっている。
そんな僕をどういうわけか、空戸はいたく気に入っているようだ。
「何読んでんの?」
「氷菓」
「どんな話?」
「学園ミステリ」
「へえー。読み終わったら貸して?」
「やだ」
「だあーん、いいじゃん貸してもー」
「バス来たよ」
適当にあしらいながらやってきたバスに乗り込む。
席に座り(空戸に押されて二人掛けの席の窓側に座らされてしまった。)、まだバスを待って並んでいる列に眼をやる。
と、
「……あーあ」
つくづくこの世界は、僕を嫌いなようだ。
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