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「どしたの?」
「……なんでもない」
「またなんか見えた?」
「まあね」
「え、何々? おせーておせーて」
「嫌です」
「ちょ、距離を表すために敬語使わないでくんない?」
そしてまた笑った。
空戸は僕の力(デイドリームと僕は名付けている)を知る唯一の人間だ。空戸がクラスの人間と次々打ち解けていく中、ただ一人心を開かない僕に空戸はしつこくつきまとってきた。そんな空戸を追い払おうと、僕はデイドリームについて話した。不気味がって逃げ出すかと思ったら、あろう事か余計に興味を持ちやがって、このような関係に至る。
今では後悔している。
ちなみに僕がさっき見たのは、少しやつれたようなサラリーマンの記憶。
食卓に一人。
仕事帰りだろう。鞄を置き、ネクタイを緩め、椅子に凭れている。
寝ている最中に男の帰宅に気付いたのか、眼をこすりながら子供が男に近寄る。
口を開き、空気を震わせ、男の鼓膜に子供の声が届いた。
おかえりなさい。
その瞬間。
ばきっ
フローリングの床に子供の身体が投げ出された。
男は子供に構わず、リビングを出ていった。
男はバスを待っている。
そうして朝から嫌なものを見た嫌なものを見たと思っている内に、
バスが動き出した。
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