第一幕:prologue

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普段ケティはここまで怒る事は無い。   切れたとしてもふざけているノリ程度で、本当に怒ったケティを見た事が無かった他のメンバーは驚きを隠せなかった。   しかしケティが怒るのにもそれなりの理由があっての事だ。   すっかり青ざめ口をつぐんでしまったアリス、恐怖に怯え微かに震えるローザ。   そんな二人を見ているのがケティには苦痛で仕方なかったのだ。   些細な事かもしれないが、それでも大事な友人が怯えているのをケティは見過ごせないのである。   だが一方のクリスも驚きで口を数回閉開していたかと思うと、顔を真っ赤にしてケティに食い付いた。   「確かに普段おちゃらけて変な話ばかりしてたよ!けど今回は違うんだってば!!」   「何が違うのよ!?」   「俺がソレを見ちゃったんだよ!!!」   ケティは何を言い出すのかと呆れる、再び叱咤しようとクリスの目を見た。   しかし数秒後には今まで抱いていた怒りが嘘のように消え去っていた。   何故なら、クリスもまた…震えていたからだ。   目にはうっすらと涙が溜っている、握っている手には汗が滲出て震えが止まらないのだ。   自分の話に一番脅えていたのはクリス本人だった事に全員は気付いた。   話していて暗くなってしまう、それを避ける為いつもの明るさを崩さぬようクリスは無理して話していた。   話したのは誰かに聞いて欲しかったから、誰かに自分の恐怖を聞いて欲しかったから。   そして…その誰かはこの5人になった。   普段から6人は一緒、学校も一緒で帰りや休みの日にはほとんどの時間をこのメンバーで過ごしている。   特に休みや放課後に以前は喫茶店だったロビンの家の店のスペースを借りてこうして雑談をしていた。   一緒に長い時間いる彼等は御互いの事を良く知っている。   勿論、アリスやローザが怖がりなのもクリスはよく知っているのだ。   だから、いつもは面白おかしい話を選んで話していた。   けれどクリスの味わった恐怖は一人で背負うのには重すぎた。   だからクリスは、怖がられる事を承知の上で話をしたのだ。   「本当に、ごめん…でも、俺怖くて…それに!皆なら…皆じゃなきゃ、俺の話なんて…信じてくれないだろう…?」
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