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 薔薇のように豊潤な血だった  それがなにを意味するのか  わかりすぎる程わかっていた  だが、彼カレルレン・ランクーマー・ド・バスタラール・ルカスは、その闇の性故かそれとも伝説の血がもつ暴力的なまでの陶酔感故に、吸血という人にあらざる行為をやめることができなかった  血と薔薇と十字架の呪い  この一族を呪われた生に縛りつける神の鎖を断ち切るもの  ROSEBLOOD  芳しい真紅  BLOOD of the ROSE  奇跡の処女(おとめ)  赦しの御手(みて)  魂の銀盤を書きかえるもの  主のいます証  カレルレンは探し求めた  よるべなき闇の眷族を束ねる王族の子として生をうけてより千年の時が過ぎ、探求の旅は九百年をこえていた  すでに父母は聖なる者の使徒によって滅ぼされてしまっていた  一族の偉大なる指導者であった父  ベルベットのように滑らかな心地よい声で語られた秘密  血と薔薇と十字架の呪い 「我らを十字架の呪いより解き放つには、血と薔薇を手に入れなければならぬ」 「父上、血と薔薇なら、この城にもあるではありませぬか」  カレルレンは父と同じだが、まだ使いなれていない貴族の言葉で辿々しくいった  偉大な父が笑い声をあげた  カレルレンは少し不安になって、美しい母の膝の上で恥じ入るように身を竦めた  母が優しく抱きしめてくれたのを覚えている  誰よりも美しかった母  誰よりも優しかった母  誰よりも愛してくれた母  カレルレンは母を滅ぼした聖なる者の使徒を探しだし、まさに八つ裂きにしてボロ屑のように教会の前に棄てた  血は口にしなかった  はらからの狼たちにもその肉を食べることを禁じた  そして羊皮紙に八つ裂きにした神父の血で、 “この屍に触れし者に  神に呪われし者の呪いあれ  一族郎党はいうにおよばず  住まいし大地も呪いあると知れ  我、片足を引きずる聖者に連なりし狼を統べる者の王子”  と書き記し、手が焼け焦げるのもかまわず、神父のロザリオで教会の扉にそれを突き刺した
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