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場所はアメリカ、紐育。その一際大きな港に、年若い日本人の青年が降り立った。
彼は手持ちの荷物を足音に置くと一度辺りを見回し、一言だけ呟いた。
「…久し振りだな。紐育は」
Chapter1
東洋のナイト
時は遡ってその3日前、此処は紐育のブロードウェイ、リトルリップシアター屋上の秘書室である。
デスクワークに勤しむラチェットに、国際電話が入ったと同僚のプラムが内線で知らせてくれた。
ラチェットは、世界の最先端を往くこの紐育でもまだ珍しい、内線機能付き電話の受話器へと手を伸ばし。肩と頬で受話器を挟むと再びデスクに広がる書類へ双眸を落とした。
「Hello」
涼やかに通る声は部屋に響き、受話器越しに遠く離れた相手へも届く。
『久し振りだな。ラチェット』
「あら、本当にお久し振りね。大神一郎」
電話は、アメリカから遠く離れた日本。帝都東京を霊的力で魔の物から護り日々戦う、帝国華撃団総司令、大神一郎その人からの物であった。
ラチェットは肩から受話器を下ろすと手に持ち直し、空いた片手でペンをクルクルと器用に操りながら、かつての戦友からの突然の連絡を素直に喜んだ。
「で、どうしたのかしら突然。私に何か御用でも?」
『ああ、実はな…─』
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