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辿り着いた先の秘書室の扉の前に立ち、ネクタイを正すようにしてキュッと締めると表情も引き締め─
コンコン‥
と、二度軽くノックする。
そして本来なら、次にはラチェットの鈴を転がしたような美しい声で
『どうぞ。開いているわ』
と、返事が返ってくる筈だった…
代わりに。とでもいうように返って来たのは
「冗談言わないでっ!」
という、怒鳴り声。
「わひゃぁあっ!」
新次郎は予想外の事態に驚き、オーバーなリアクション付きで間抜けな音を出してしまう。
一瞬、自分に対して怒鳴られたのかと思ったがどうやら違うらしい。ラチェットは新次郎がノックしたのにも気付いていないのか、未だに何事かを早口な英語で怒鳴り続けて居た。
「び‥吃驚した…‥。中に誰か居るのかな…?」
ドクドクと波打つ心臓を落ち着けるように幾度か撫で下ろし、新次郎はゴクリと生唾を飲み下すとドアノブを回しゆっくりと扉を押し開いた。
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