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辞表を出し、最後の給与を受け取るや、その足で空港へ。
これからの仕事、生活費、高まる不安。もうそんなことは考えられない。薄い給与袋でも、それを使い切るまで数ヶ月位はASIAなら過ごせるはずだ。とにかく日本という現実から離れたかった。社会の束縛から逃れたかった。
私を乗せた飛行機は一路バンコクへ。最終的な目的地を決めている訳ではない。まずは自由を取り戻した祝杯をあげるための地。ドンムアン空港から列車に乗ってバンコク市内へ。窓の外から流れてくるナンプラーの臭い。私の中からうす汚れた何かが流れ出してゆくのを感じる。深く深呼吸して心の故郷の空気を体に摂りこむ。私はここに帰って来たのだ。
サイアム・スクエア近くに宿を取ると、アジア最大の歓楽街パッポンへ。目的は観光でも、女でもない。裏路地の駐車場の奥にある小さなイングリッシュパブだ。バンドの生演奏を聴きながら、血のしたたるようなビーフステーキとシンハビールで独りきりの乾杯。帰って来たぞ。私のASIAへ。
さて、この先、どこへ行こうか。時間なら腐るほどある。金の続く限り私は自由だ…。
シンハビールを呑みながら、どこに行こうかと考える。2本、3本とビールが進む。
タイ国内なら東北部ノンカイものどかで素敵だ。あるいは街遊びならクアラルンプールかシンガポール。西東の国境付近はそれぞれ内戦できな臭い。アンコールワットでは地雷を踏みそうだ。
…いや、今の気分は少し違う。人や街や遺跡よりも、もっと大きな、そう、雄大な自然に包まれてみたい。!!。
私の脳裏にはいつかテレビでみた神々しい白い頂が映った。それはヒマラヤ。そうだネパールに行こう!
心が踊る。目的地は決まった。早速、明日から行動開始だ。まずは情報収集から始めねば。明日、カオサンにでも行ってみるか。航空券も手配しなければ。
私の頭の中は、まだ観ぬ国のことでいっぱいになっている。この旅へ期待感で胸が張り裂けそうだ。
いざ、ネパールへ。瓶に残ったシンハビールを一気に流し込んだ。
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