いざ、ネパールへ

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 目的地を決めた次の日、カオサンストリートで「地球の歩き方」の古本を手に入れた。誰かが捨てていったものだろう。旅行会社にとびこんで航空券も手配した。ただ「地球の歩き方」を読んでも、読んでもネパールという国の雰囲気がつかめない。まあ、行ってみればなんとかなるさ。  軽く考えて、私はドンムアン空港にきた。カトマンズへの発着便の待合室に入った私は自分の目を疑った!  どこを見ても、誰を見ても、気合いの入った登山家のいでたちばかり。いかめしい登山靴、杖、防寒具!  私はというと、TシャツにGパンのいわゆるバックパッカーだ。  私の頭に不安がよぎる。勢いでネパール行きを決めたものの、とんでもない過ちを犯そうとしているのではないだろうか。  私の不安をよそに搭乗手続きが始まった。登山家達は次々と機に乗り込んでゆく。  私も皆に続いて飛行機に乗り込む。私の不安をよそに、機はスルリと飛び立った。    飛行機は順調に飛行を続け、もう少しでカトマンズに到着しようとしているその時。 ポーンと小気味の良い音と共に機内放送が流れた。 「今、右手にみえるのがエベレスト。エベレストの近くを飛行中です。」 総ての乗客の目が右側の小さい窓に注がれる。    「わっっ!」 と機内が沸き立った。髭もじゃの老紳士も、登山家たちも、みんなの瞳がキラキラと輝いている。まるで少年少女のように。  騒ぎはいつまでも終わらない。慌ててカメラを取り出す者、構える者。一斉に右側へとみんなが移動したので右に飛行機傾くほど。  どんな苦労がこの旅に待ち受けていようとも、あの風景を眺める幸せが打ち消してくれるだろう。そしてさらに山に近づきたいとの衝動を押さえられなかった。
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