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第一章
「駄目だろうなあ。」
目の前に立つ、自分の育ての親に言われては、諦めるしかない。
「師匠。春にも、神官長は居ない。」
俺は、一応異論を唱えてみた。
「あそこは特殊だろ?法皇が、何せ神官長を付けさせないからな。………間違い無く天界には居ないのか?」
端正な顔の師匠が顔を曇らせる。
「居ない。俺が、これって思う奴。」
……候補者は山の様に居た。だが、その殆どが、俺の妻の座を狙う下心、ありすぎの連中だった。
「………人間界に行ってみるか?」
「何で?」
普通の人間に俺の神官長が勤まるワケがない。
「お前の場合、よっぽどまともな相手じゃないと、神官長なんか勤まらないだろ。うむ、人間なら……。」
……この青年の心に入り込めるかもしれない。
「例が無いわけでは無いぞ?初代の春神も、神官長は人間から選んで来しな。」
「でも、師匠。」
「………でもじゃない。まったく、豊穣を司る秋穂神が、自分の相手を見つけられないとは……。いいか、これは、命令だ。さっさと人間界に行って、相方探して来いっ。秋と春は独り身でいられると思うなよ?いいな?」
それが、天界での俺の最後の記憶だった。
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