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「みかん。あいつらか?」
「ご名答。さすがだな、薬嗣。一応聞いておく。なぜ犯人だって判った?」
目立たない様に、そのまま図書館の外部との入り口付近にある受け付けに腰を下ろすと、本を読むためのスペースの一角を目線で、追った。その一角には若者が五人程居り、何かを小声で話しいた。
「あ?あいつら此処学内の関係者じゃねえだろ。しかも、この学園の近所でも見かけた事無いし。……その上、図書館なのに、本も開いてない。鞄があれだけ膨らんでるのも、不自然だしな。」
馬鹿にするなよ。そう言いながら、目線は五人組から離そうとしない、薬嗣を見て、八朔は目を細めた。………この学園の関係者は学生を含めて、数万人を超える。その全員どころか、ご近所全ての人間の顔が、頭に入ってる奴の事、馬鹿とは言わないだろ、普通。八朔は、心の中で呟きながら自分も、五人組に視線を合わせた。
「……さーて。どうやって捕まえるかな?」
八朔が思案していると、五人組に、小さな影が近づく。
「あれ?狸?」
薬嗣も、狸に気がついたのか、声を出した。
「何してるんだ?あの毛玉。」
……まずいな、変な動きをしたら、奴らに気づかれる!
「あ、机に上った。」
八朔の心配を余所に、狸は器用に机によじ登ると、五人の真ん中辺りに、座りこんだ。他の閲覧者も、さすがに狸の姿に気がつき始め、狸の姿を見て、微笑んだり、クスクスと小声で笑い始めた。
「そっか、ワザとに姿現したな。あいつ。」
薬嗣が、納得すると席から立ち上がる。
「おいっ!奴らに気がつかれる!座ってろよっ!」
八朔が、慌てて薬嗣を止めようとした。しかし、逆に薬嗣は、八朔の腕をひっぱる。
「大丈夫だって。誰も、俺たち見てないだろ?犯人だって、狸に釘づけ。行こう。」
薬嗣の言う通りだった。今や図書館に居る全員が、突如表れた、変わった毛色の狸に夢中になっていた。
狸も、視線を集めて万更でも無いのか、寝そべったり、丸くなったりして、忙しなく動いている。
「それより、注目された奴らが、逃げ出さない様に、証拠押さえるぞっ!」
薬嗣は、八朔をひっぱりながら、素早く行動に移した。
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