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「だーかーらーっ!事務員が欲しいって言ってるだろうっ!!」
「必要ないでしょう?私が居れば。」
「必要じゃろ?坊は、小僧に張りついておるし、研究棟に受け付けは必要じゃろ?ついでに言うなら、普通なら、準教授や助手とかも居るんじゃないのかの?これだけ、生徒が居ったら。」
「だよなっ!ほらみろっ。狸だって俺の意見に賛成だってよっ。」
「……老師……。」
長身の秘書は、恨めしげに、机の上で、呑気にお茶を啜る、狸を見た。
ある、夏の終わりの午後。この巨大な学園、千樹大学の民俗学棟の主人、教授の翠樹 薬嗣の部屋で、討論が繰り広げられていた。
議題は¨民俗学部に、事務員及び、受け付けは必要か?¨だった。
「しかし、教授の体質を考えると……。」
教授の秘書である、法樹 宗は、自分の主人を何とか説得しようと話を続ける。
「体質は何ともなかろう。小僧の力は春が一番強い。今は秋に差し掛かっておるじゃろ?それに、坊が押さえ込んでおるしな。」
狸が、したり顔で頷く。
「それとも何か?神を裁きし神、法皇神ともあろう坊が、四季を司る春神の力を押さえきれないとも?」
狸は、ニヤリと笑った。
「……老師。そう思うなら、老師の力を貸してください。神力は貴方の方が上でしょう。」
「断る。何でワシが、人の思い人を助けなきゃならんのじゃ。」
狸が、お茶を飲み干すと、机から降りて、すたすたと、歩き始めた。
「お茶のお代わりなら私が入れますよ?老師。」
「そうか?じゃあ、今度は焙じ茶で頼む。」
狸は、机に戻り、教授の膝によじ登る。
「まあ、事務員の話で盛り上がるぐらいじゃから、世は平和と言って良いんじゃな。神が暇なのは良い事じゃの?小僧。」
「……言われてみたらそれもそうだな。」
教授は、何の気無しに窓の外を見やると、紅葉の葉が薄らと色付き始めたところだった。
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