第一章

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 「みかんじゃねえ。はっさくだっ。八朔っ!」  結局、三人仲良く(?)図書館にやって来て、入り口で、受け付けを行なう窓口に用件を言うと、館長室に通される。館長室の扉を開けると、眼鏡を掛けた、薬嗣と同じぐらいの背の高さの人物が、ホワイトボードの前で、何やら書き物をしていた。それを見た、薬嗣は、名前を呼びながら、抱きつく。しかし、抱きつかれた人物は、不機嫌そうに、みかんと呼ばれた事を訂正するため、達筆な文字で、ホワイトボードに、自分の名前を書きつけた。  「薬嗣。もう二十年以上の付き合いなんだから、いい加減覚えやがれ。………なんだ?そのでかいのと、小さいのは?」  八朔(はっさく)は、扉の前に立つ、宗と狸を指差した。  「あ?これ?でかいのが秘書の、法樹 宗(ほうじゅそう)と、小さいのが狸の天狗(てんこう)」  「あっそ。で、又お前の事務員の話しか?だったら、答えは断る。他の用件は?」  八朔は、見た目は、年のわりに童顔で、二重の大きな黒目がどこか、一時ブームになった、小型犬を思い浮べる。しかし、口を開くと、薬嗣以上の毒舌の持ち主だった。  「他に用事……。あ。お前の作ったアップルパイが食べたい。」  薬嗣は、横目で宗を見ながら答えた。ここに来る前に、¨そんなに、美味なら私も食べてみたいですね。¨と、言っていたのを思い出し、駄目元で八朔に言ってみる。しかし、八朔は不機嫌だった筈の顔に笑みを浮かべながら、答えた。  「仕事の話し以外なら、付き合ってやる。お前、ラッキーだな。今日は親戚から林檎が送られてきたから、焼いてきたところだ。そこのでかいのと、小さいのも食うだろ?……狸に食わせても大丈夫なのか?薬嗣。」  薬嗣から離れると、つかつかと、狸に歩み寄り抱き上げる。  「へー。この狸。変わってるな?黄色の毛玉な上、中国の霊獣の天狗か。やっぱり主食は毒蛇なのか?」  「んな物食うか。ワシの主食は美味い飯じゃ。どれ、その小僧が絶品扱いする、アップルパイ、食わせろ。」  一瞬の沈黙。しかし、八朔はまったく動じず、笑い飛ばした。  「すげーなあっ!最近なぬいぐるみ。喋るんだ。」  「誰がぬいぐるみじゃっ!ワシは本物の狸じゃっ!!」  しかし、八朔に本物と信用させるために、それから、30分程説明するはめになったのは、言うまでもない。
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