第一章

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 「驚かんのー。ワシが喋っても。」  狸はお茶を啜りながら、八朔に言った。普通なら、狸が喋ったりすると、化け物扱いするか、自分がおかしくなったとか、何にせよ、まずは驚く筈だ。  「……薬嗣の友人を長年やってみろ。狸が喋るぐらいじゃあ驚かなくなる。まず、居ないだろ?誰構わず、自分の虜にする特異体質のやつ。まあ、お陰で愉快な人間関係築けたけどな。」  薬嗣の特異体質。老若男女問わず、虜にしてしまう、愉快な体質だ。この体質は、薬嗣が人々から神と呼ばれる存在であり、その神の中でも、数少ない神の上に立つ、四季神の春神にあたり、神の魂が、人間の身体に耐えきれず、神力が漏れだす。春は、生命の目覚めを司り、発情期にもあたるため、愉快な体質となった。  「それに、こいつ、民俗学の研究とか言って、変な物集めてくるから、呪われたり、祟られたり、日常茶飯事だったな。あの時は、道摩(みちくに)が居て助かったよ。あいつ、そういう事に、妙に詳しいし。」  「……まあ、詳しいじゃろうな。」  狸は視線を宙に浮かべた。道摩。八朔の言う道摩は、人間名、海樹 道摩(かいじゅみちくに)と言って、この学園の高等学校の、教師だ。ただ、人間名と言うように、彼も神様の一人で、四大元素と呼ばれる、風・火・水・土を司る四皇神の一人水を司る海皇にあたる。その上、度々、人間界に来て、平安時代には、芦屋 道満(あしやどうまん)と呼ばれた、名の知れた陰明師(今で言う、霊媒師の様なもの)だった。当然、呪術のエキスパートである。  「何だ、狸も道摩の事知ってるのか?美人だろ?」  「美人じゃな。まあ、オヌシも美人さんじゃろ。八朔は、八月一日生まれか?」  狸の言葉を受けて、八朔は、目を見開いた。  「………凄いな。俺の名前な意味、初対面からわかったの、これで五人目だ。しかも、それが狸ときた。薬嗣なんか、意味知っていても、゛はっさくだから、みかんで良いじゃん¨だぜ?少し狸を見習え、腐れ縁。」  ポンッと、薬嗣の頭を八朔は、叩いた。  「別に良いだろ。はっさくは蜜柑の仲間だ。八朔より、みかんの方が呼びやすい。」  その言葉を受けて、アップルパイの分析が終わった、宗が言った。  「では、私は教授じゃなく、薬嗣とお呼びしても構いませんね?」  「構うのに決まってるだろっ!!」  そのやり取りを聞いて、八朔と狸は、吹き出した。
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