第一章

8/15
前へ
/170ページ
次へ
 「上等、上等。お前、良い秘書見付けたじゃないか。にーちゃんも、薬嗣の体質効かないタイプか?」  笑いながら八朔は、宗に尋ねた。  「はい。月草さんも効かないんですよね。」  何時も通りの秘書顔に戻った宗は、八朔に逆に質問を返す。短い会話の中で、八朔はかなりの好人物と言う事は解ったが、念のため、調査をしてみる事にした。  「不思議な事にな。だから、初めてこいつの周りで、人が倒れているのを見て、今で言う集団ヒステリーかと思ったんだよなあ。大学の入学式の時、半数近く倒れてたぞ。その後も、同級生・教師・事務員等々、暗やみに引き摺り込まれて、犯されそうになったりとか、色々あってさ。」  ………今なら、犯されそうになる前に、全員倒せます。八朔以外は、皆同じ事を考える。薬嗣の力は最近、起こった事件の為、パワーアップしたのだ。  「まあ、そんな事もあってから、自然と薬嗣に懐かれて、薬嗣の親友だった道摩に付きまとわれて、今に至るワケだ。にーちゃん、俺は薬嗣に危害を加える気、更々ないから、安心しな。」  八朔は、宗に向かって、手をヒラヒラと振った。………さすがは、教授の御友人。気がついていましたか。  「失礼しました。教授の身辺調査も、秘書の仕事ですので。」  宗は素直に頭を下げる。  「まあ、そうだろうな。こいつの場合、かなり特殊だし。うん。にーちゃん、気に入った!何時でも遊びに来い。もちろん、狸もな。」  「当たり前じゃっ!こんなに美味い、菓子を作れる奴は有無を言わせず、ワシの友人じゃな。……月草 八朔。秋に出会ったのも、何かの縁じゃな。月草は秋の花。八朔は、平安の世から、八月朔日(はちがつついたち)にその年の実りの新穀を納め、田の実の節句として、祝った行事の事じゃ。八朔は、八月朔日の略じゃな。名字も名も、秋一色。秋に出会うのに、これ以上に相応しい、友はおらん。」  狸は、うんうんと、何度か頷いた。八朔は、狸の自分の名前の由来を、すらすらと説明するのを聞いて、心底驚いた。  「………狸。本当は着ぐるみか?」  「!!!ワシは、天然純毛100%の、狸じゃっ!!」  着ぐるみと言われた狸は、怒って八朔の、足を踏みつけた。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

898人が本棚に入れています
本棚に追加