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「痛くも痒くもねえな。………と。」
八朔が、狸を持ち上げた時だった。仕事机の上にある、電話が、ピーッ!と、けたたましい音を立てて、部屋中に鳴り響いた。
「館長。常連のお客様がいらっしゃいました。」
電話から、低音の声が、発せられる。八朔はその声に直ぐに反応した。
「わかった。すぐに行く。逃がすなよ?加納!」
八朔は、椅子から上着を取り上げ、纏うと、部屋から出て行こうとした。だが、何か思い浮かんだのか、薬嗣達の方を振り替える。
「薬嗣の腕前は良く知ってる。にーちゃん、頭はいいけど、武道の腕前は?」
「……まあ、それなりに。」
その言葉を聞いて、八朔は、にやりと笑った。
「それなりね……。俺には、この中で一番強そうに見えるが?狸は戦力外。よし、お前ら、俺と一緒に来い。」
返事を待たず、八朔は勢い良くドアを開けて、廊下に出て行く。薬嗣達も慌てて、後を追った。
「なんだよみかん。何かあったのか?」
スタスタと歩く八朔に、追いついた薬嗣が、質問してみる。
「ここの図書館は、歴代の理事や、館長が集めてきた希少価値の高い書籍が、五万とある。しかも、一般閲覧も可能なのは知ってるな?」
「ああ。俺も何冊が借りてる。今の理事長も、本好きだしな。」
薬嗣は、ちらりと自分の後からついてくる、秘書を見た。この学園の理事長は、この秘書の父親だ。
「違いますよ、教授。あの、強欲理事長が、単に好きだからと言う理由で、品物を集めたりすると思いますか?」
顔は笑ってるが、腹の中は理事長の名前を聞いただけで、怒っているのが分かる。
「はは。また、強烈な嫌味だな?にーちゃん。まあ、理事長がケチかどうかは置いておいて、希少価値のある、本は、値段も希少価値なのは解るよな?さっき、常連が来たって言ったのは、万引きの常連が来たって事だ。」
「なるほどのう。つまり、万引きして逃げ出そうとしたら、捕まえるつもりなんじゃな。面白そうじゃ。ワシにも見物させろっ!」
「ゲッ!狸、何時の間に?!」
八朔が、自分の足元を見ると、狸が、しっかりとしがみ付いていた。
「軽いから気がつかなかったんじゃろ?ほれ、良いから現場にゴー!じゃ。」
狸は八朔の足に、しがみ付きながら、呑気に指示をだしていた。
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