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「男運の悪い子に産んでしまってごめんね」。
多恵が言ったその言葉が今でも忘れられないという。
「やっちゃんも、男には気をつけるんだよ、すぐに信じちゃだめだ、身体を売るようなことしたらだめなんだからね」
祖母から孫への忠告だった。
弥生は多恵のその言葉の意味が十分に理解することができた。
祖母は生活の為、複数の男性と愛人関係を結び、子供達を育てた。
その姿はまだ子供の美恵子もわかっていた。
美恵子が弥生に「多恵の苦労話し」をした時に、「いろんな男の人に助けてもらった……」と言葉を変えて説明したが、カンの鋭い弥生には、だいたいの事が察しがついた。
多恵はその時、自分が選んだ生活手段をずっと後悔していたようだった。
娘の美恵子の男運の悪さの因を作ってしまったとまで思っていた。
その因を孫に受け継がせたくない。
祖母から弥生への忠告には、そんな意味があったようだ。
10歳までに二度も父親が変わった事は十分に不運だが、弥生には更なる不運が覆いかぶさった。
第三者の僕がその話しを聞いて、それは不運続きではなく、まぎれもなく不幸になった瞬間だったろうと思う。
突然、母親が死んだのだ。
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