《第一章》平和な 日常

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  しかし、ふいに私の足元にある私自身の物だけだった影が大きなった。『それ』には、影があるようだ。 ……つまり、『現実に存在する物』ということ。私の『これが、気のせいだったら良いのに……』という淡い期待は、あっさりと打ち砕かれた。   …そんな事は現実にはあるはずが無いのに。 『人間』という生物は緊急事態でも、自分の楽な方向へ思考回路が働くらしい。     「グゥルルルル……」     耳元で聞こえた、声。 近い…。 私は弾かれた様に走り出した。 背筋に寒気が走る。 それを振り払うように、無我夢中で走った。   しかし、『それ』の気配は消えない。 遠退いている感じもしない。 捕まる…! 怖い…怖い怖いこわいコワイ……っ!逃げなくちゃいけないっ! 焦りの気持ちが足を絡ませる。   あいつとの距離を知りたいから振り向きたい。 駄目だ。 捕まりたくない。   影がかかる。   絡まりそうになる足を必死に回す。 だが無情にも、こういった時に人は普段起こさないような失敗を起こすものなのだ。  
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