1人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
小鳥のさえずる朝。眠気まなこをこすりながら食卓につく少年がいた。
少年の名は「里見 弘(さとみ ひろむ)」。今は地方に単身赴任している兄を追ってスカッシュに打ち込んでいる善良な少年だ。
「はい、これいつもの。お父さんが昨日のうちに買ってきてくれたのよ。後でちゃんとお礼言いなさいね。」
そう言って母が弘に手渡したのは「週間スカッシュ」というスポーツ雑誌だった。
弘はそれを受け取るとパラパラとページをめくり始めた。
「引退してから四年も経つのにまだ兄ちゃんの記事が載ってるんだね。」
弘の兄「一彦(かずひこ)」は後絶の天才と呼ばれたスカッシュプレイヤーだった。若干19才にして日本一に輝くと三年間でたった一度しか敗北しないという偉業を成し遂げた。
しかし神は無常。というのだろうか、酷使しすぎたのかはっきりしないのだが原因不明の肘の怪我で24才にして現役引退をしてしまったのだ。
今はここ長野から遠く離れた高知県で教師をしている。
最初のコメントを投稿しよう!