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「una」
聞き覚えのある声に私は頭を上げた。
「………」
見覚えのある顔だ。
顔といっても辺りは暗闇といえるほど暗いので輪郭しか見えない。
恐らくここ数日の会ったことがあるのだろう。
「una」
確か…。
「una」
思い出した。
三日前に今と同じような私に今と同じように「una」と言い、何の反応を見せない私に飽きてしまったのか「またな」と一言だけ残して去っていった。
あの時の彼女だ。
「una。何か話せ」
「ウナ?」
「お前の名前だ。una」
変なやつだ。
初対面の人間に名を付けるのだ。
「何か話せ」
「………腹が減ってるのか?パンならあるぞ、食え」
カビてパサパサになったパンを手渡しする。
「そうか、主人とキャッチボールがしたいのか。会話以外にそういうスキンシップの取り方があったな」
「おい」
「何だ」
彼女が何を言いたいのかよくわからない。
面倒なことになりそうだ。まず落ち着かせることにしよう。
「ここに座れ」
彼女は意外と素直に従った。
間近で見た彼女の顔は少女のそれだった。恐らく二十歳足らずといった年齢。
「座ったぞ。何か話せ」
まだ彼女と会って三分程度しか経っていないが、彼女はなかなか横暴な性格が常なのだろうということが容易に想像できた。
「できるなら帰ってくれたら嬉しい」
彼女は呆れた顔をしながら口を開いた。
「お前はな…考えが足りないよ。人をわざわざ座らせて、しかもそれに素直に従ってやったのに帰れ、か。それなら座らせる必要はない。こんなパンまで寄越して。…カビてるじゃないかこれ」
面倒な奴に絡まれた。
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