無。

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気付いたら、私は紅く色付いた肉塊の山の頂上に座っていた。   「これは、お前がやったのか?」   「………」   男が問うた。 私は細身の剣を抱え、ただ黙って男を見つめた。     いきなり、男は私の腕を引き、その場から逃げるように歩き出した。       「…何故私を連れて行くの…」   問うと、男は困ったように笑って私の輪郭を撫でた。  「何でだろうな?」   男は旅人で、日雇いの傭兵をしていた。 私の剣を見て、男は言う。  「いい剣だな」   私は、黙って剣を握りしめた。   男は私に何を求めるでもなく、ただ傍に置いた。 時折、輪郭を撫で、指先が唇を掠める程度だった。   「…貴方は、私を必要としているの?」   「……そうだな、必要かもな」   精悍な顔が笑う。 男の指先が、私の長い髪を掬う。   「綺麗だな」   「私は……」     ある日、私は男に剣を向けた。 紅が、舞う。   「…な…ぜッ…」   「貴方が必要とするから」  息を切らす男に、私は息一つ乱す事なく近付いた。   「いつか、貴方は言った。必要なものは必ずいつか争いの基と成る、と」   男の耳に、色を含んだような吐息に言葉を乗せ、言った。   「…ッ!」   だけど、私はひどく無表情で、剣を振り上げた。   再度、紅が舞った。   私は、紅く色付いた肉塊を跨ぎ、その場を後にした。   .
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