困った、転校生

11/60
前へ
/68ページ
次へ
 声のする方角に視界を向けると、例の女性がパイプ椅子に座っていた。 「あ、はい。すっかり大丈夫です。  それより、僕の名前をお知りになられているという事は、教職員の方々から私が本当に転校生だという事を、聞きました?」  そう、翠公平(みどりこうへい)とは他の誰でもなく、自分の名前である。  しかし僕自身、まだ自らの名前を彼女に名乗っていなかった筈だ。  ここが保健室という事を踏まえて思案してみるに、あの一戦の後、教職員に身柄を引き渡そうとしたのだろう。そこで僕が本当に転校生だという事を聞いたのかな?  憶測を立てていると、パイプ椅子に座った例の女性は突然、ペコッと頭を下げた。 「申し訳御座いません。私の完璧な早とちりでしたわ。  転校初日を邪魔した事に加え、何の罪もない善良な貴方に、私は暴力と罵声を浴びせてしまいました。お詫び申し上げるだけでは、済まない事と思いますが……」 「良いですよ」 「……ぅ、え?」  ワンテンポ遅れて、例の女性が下げていた顔を上げた。 「良いですよ。僕は全然気にしてないんで」  再度、女性に笑顔を向ける。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加