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声のする方角に視界を向けると、例の女性がパイプ椅子に座っていた。
「あ、はい。すっかり大丈夫です。
それより、僕の名前をお知りになられているという事は、教職員の方々から私が本当に転校生だという事を、聞きました?」
そう、翠公平(みどりこうへい)とは他の誰でもなく、自分の名前である。
しかし僕自身、まだ自らの名前を彼女に名乗っていなかった筈だ。
ここが保健室という事を踏まえて思案してみるに、あの一戦の後、教職員に身柄を引き渡そうとしたのだろう。そこで僕が本当に転校生だという事を聞いたのかな?
憶測を立てていると、パイプ椅子に座った例の女性は突然、ペコッと頭を下げた。
「申し訳御座いません。私の完璧な早とちりでしたわ。
転校初日を邪魔した事に加え、何の罪もない善良な貴方に、私は暴力と罵声を浴びせてしまいました。お詫び申し上げるだけでは、済まない事と思いますが……」
「良いですよ」
「……ぅ、え?」
ワンテンポ遅れて、例の女性が下げていた顔を上げた。
「良いですよ。僕は全然気にしてないんで」
再度、女性に笑顔を向ける。
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