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「さあ、もう行かなくちゃ…」
彼がそう私を促した途端に、何処からだろう…
遠くから救急車の音が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、いつもこの道を走ってた仲間達が集まっていた。
その足元に無残に壊れた見覚えのあるバイク。辺り一面に散乱している花びらの中でピクリとも動かず横たわる人影…
それは今、私を抱きしめている彼だった。
友人の悲鳴や彼の名を呼ぶ声が飛び交う中、彼の親友と仲間達の会話が耳に届いてきた。
「減速しないからなんか可笑しいと思ったんだよ」
「誰よ、命日に追悼ツーリングなんかしようって言い出したのは」
「お願い、連れて行かないで」
その瞬間、私は全てを思い出した。
あの夏の日、私たちはここにツーリングに来ていた。彼は私を後ろに乗せてこの道を走っていた。
その後どうやって帰ったのか、どうして彼に会えなかったのか、何故思い出せなかったのか…
全てが一瞬にして明白になった。
彼が私に会ってくれなくなったのはそれからだった…
違う…
会ってくれなかったんじゃない…
会いたくても、会えなかったんだ…
私の時間はあの夏の日から止まったままだったんだ。彼らはあの日と同じようにここに来てくれたんだ…
彼に会いたいという強い思いが彼の時間さえも止めてしまったのだろうか…
微笑みながら彼が私の手を引をひいた。
いつの間にか、いつも二人で眺めていたあの景色が遠く霞んで見える。
ごめんね
ありがとう
でも、これからは二人の約束どおりずっと一緒にいられるんだね。
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