宿屋

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ギィ、と音がして扉は開いた。 足を踏み入れてみる。 足を踏み入れたそこは、狭いロビーだった。 部屋の右手の床には毛の短いカーペットが敷かれ、古ぼけたソファーと低いテーブルが置かれている。 部屋の隅には、アンティーク物だろうか、古めかしい大きな振り子時計が据え置かれていた。 独特の音を鳴らしながら、ゆっくりと時を刻んでいる。 天井には小さなファンが音もなく回り、室内は煙草の臭いがしていた。 なんとも静かで、不思議な空間だった。外の喧騒がまるで嘘のようにさえ思えてくる程に。 その時、ふと視線を感じる。 左手を向くと、受け付けのカウンターがあった。 カウンターには何枚もの書類が乱雑に積まれ、いくつかは床に落ちていた。 そして視線は、その書類の山の向こうから注がれていた。 少年が一人、旅人を見ていた。 だらしなく回転椅子に座り、カウンターより少し低い机に足を乗せている。 右手には煙草を持ち、煙を立たせていて、左手は雑誌を捲ろうとしていた。 珍しい深い青色の髪、髪の間から覗く瞳は翠。 十五か十六くらいの歳に見えた。 少年はじっと旅人を見ていた。特に感情は見受けられない。 旅人もどうしたら良いか分からず少年をじっと見ていた。
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