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朝。
「おはよう。アトラス。」
「おはようございまぁす。イリア様ぁ…。」
主様の朝は早い。時刻は午前5時前。シルビアの玩具を捕りに行く。僕は主様が帰って来るまでお留守番。シルビアはまだ寝てる。この間に主様の本を読む。…難しくは、ない。
「もう時間は無いんだ。ゴメンな。」
イリアの持つマインド・コントロール。これは人の脳内を組替える力の事を言う。脳細胞の誕生・死滅。回路の復活・消滅。更に変更・修正・再生。これは自らの記憶を犠牲にしてその行為を行う。
人を呪わば穴貳。人の記憶を操作する代わりに、操作した分だけ自分の記憶が消えていく。イリアはこの力をなぜかシルビアに使っている。
「アトラス、すまない。私は後一回で記憶の全てが滅してしまうだろう。きっと生きながらに永眠するだろう。さて、帰るか。」
いつもは獲物を二・三匹捕るのだが、今日は零。イリアの眼は真っ直ぐだった。
「シルビア。おいで。」
「ガフ!」
主は兄の首元を撫でる。あれ? 今日は獲物を捕ってない。
「主様。今日の私の玩具は?」
「嗚呼。今日は無いぞ。」
そう言うと主様は僕に近づいてキスをした。そして耳元で囁く。
「どうしました? 主様。」
「さよなら。」
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